コラム
成年後見制度の利用促進概略ご紹介
成年後見制度は、判断能力が不十分な人たちを支える重要な手段であるにもかかわらず、まだまだ十分に利用されているとは言えない現状です。
これまで成年後見制度の充実した利用を目指して、平成29年3月24日に第一期成年後見制度利用促進基本計画(平成29年度~令和3年度)が閣議決定、令和4年3月25日に第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年度~令和8年度)が閣議決定されました。
現在は上記のとおり、第二期成年後見制度利用促進基本計画により、種々の取組が進められています。 成年後見制度の利用促進に当たっての基本的な考え方は次のように厚生労働省のホームページに掲載されています。
〇地域共生社会の実現に向けて、権利擁護支援を推進する。
〇成年後見制度の利用促進は、全国どの地域においても、制度の利用を必要とする人が、尊厳のある本人らしい生活を継続することができる体制を整備して、本人の地域社会への参加の実現を目指すものである。以下を基本として成年後見制度の運用改善等に取り組む。
・本人の自己決定権を尊重し、意思決定支援・身上保護も重視した制度の運用とすること。
・成年後見制度を利用することの本人にとっての必要性や、成年後見制度以外の権利擁護支援による対応の可能性も考慮された上で、適切に成年後見制度が利用されるよう、連携体制等を整備すること。
・成年後見制度以外の権利擁護支援策を総合的に充実すること。任意後見制度や補助・保佐類型が利用される取組を進めること。不正防止等の方策を推進すること。
〇福祉と司法の連携強化により、必要な人が必要な時に、司法による権利擁護支援などを適切に受けられるようにしていく必要がある。
実際に成年後見人として活動してきた専門職の視点からも、従来は財産管理や法的な目線に少々偏った運用となっていたように思います。今後は本人の自己決定権の尊重、意思決定支援・身上保護も重視した活動が我々専門職にも期待されていますので、今以上に本人に寄り添った活動を目指したいと思います。
また成年後見の制度は成年後見人となる者だけが担うものではなく、我々と自治体、福祉関係者等とが最初から最後まで緊密に連携することが非常に重要で、持続可能な地域の体制整備も必要です。
その他お伝えしたいことがまだまだありますので、今後も機会があればポイントを絞って成年後見制度利用促進の今をご紹介していきたいと思います。
厚生労働省のホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202622.html
皆様に信頼される後見人を目指して
私たち専門職成年後見人は、仕事としてご本人の財産をお預かりして適正に管理するお手伝いをしています。でも、預ける側からすれば、見ず知らずの他人に自分の大切な貯金通帳を預けることに抵抗がある……
そんな不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
成年後見人は、毎年報告書を提出して家庭裁判所のチェックを受ける必要があります。
それに加えて私たちリーガルサポート会員は「執務管理規程」という独自のルールにより、半年に一度、財産の管理状況や収支等の報告を行うことが義務付けられています。
報告の期限に遅れると指導監督が行われ、後見人に就任することができなくなったり、場合によってはリーガルサポートから除名されるなど、非常に厳しいルールが設けられています。
また、リーガルサポートでは新規に後見人等名簿への登載(名簿登載が後見人等事案の受託要件です。)を申し込むときや、更新を受けるためには様々な内容の研修を受講する必要があります。
その中には「倫理」についての必須研修があり、専門職後見人としてあるべき行動規範や考え方を深く掘り下げて検討します。
私も何度も受講しましたが、そのたびに専門職後見人の行うべき職務は重責だと感じて、身が引き締まる思いがします。
私たちリーガルサポート会員は上記のような制度を通じて研鑽に励み、皆様に信頼される後見人を目指しています。
ご本人の意向について
日本の風習でもあるお彼岸やお盆などのお墓参り、ご先祖供養のため定期的なお参りを大切にされている方も多いのではないでしょうか。
私たち司法書士が専門職後見人として選任される事案においては、身寄りのない方の後見人に選任されることも少なくありません。
後見人に選任されると、支援者の一人として出来る限りご本人の意向に沿った支援を考えて事務を行いますが、実際のところ、認知症等によりご本人から以前の生活についてお話を聞くことができず、大切なご家族のお墓すらどこにあるのか分からないこともあります。
ご本人にとって大切に思っている人は誰なのか、大切な物はどこにあるのかなどの事柄を、ご本人自身がお元気なうちに、いざという時に備えて情報を整理し、想いを書き留めておくことも大切なことかもしれません。
親族の成年後見人について
親族であっても、成年後見人になるとご自身の財産と本人の財産を明確に分離し、適正に管理しなければなりません。
成年後見人は本人の財産や収支状況を把握し、請求書・領収書の管理、金銭出納帳の作成、医療・福祉サービスの利用手続などの事務を行います。
また、成年後見人は家庭裁判所の管理監督のもと、少なくとも年に1回は本人の財産管理や身上監護の状況をまとめた報告書を家庭裁判所に提出する必要があります。
親族の方が成年後見人になることを検討する場合には、親族の中に責任をもってきっちり財産管理などを行える方がいることが前提になります。
親族がご高齢・遠方の方のみで成年後見人になることが難しい場合や、そもそも財産管理などの事務手続が面倒だと感じられている場合は、一定の費用はかかりますが、司法書士などの専門家に成年後見人就任の依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、成年後見人は最終的には家庭裁判所が判断して選任しますので、「親族間に争いがある」、「申立てに反対する親族がいる」などの場合には、申立書に成年後見人候補者として司法書士や親族を記載したとしても、それらの者以外の専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が成年後見人に選任される場合がありますのでご注意ください。
任意後見
長年つれ添った配偶者がお亡くなりになり、相続手続きや様々な相談を受けた方から久しぶりに連絡がありました。
お子様がいらっしゃらず独りで生活されていたその方は、入院をすることになり今後の生活に不安を感じたため、任意後見のことを聞きたいというものでした。
説明を聞いたのち、私に任意後見人をお願いしたいとご依頼いただき、その後十数回の話し合いを重ねて契約をすることになりました。
その話し合いの中では、日常の何気ない会話をしつつも将来の生活や財産のこと、死後のことについて話しました。またエンディングノートを活用することもありました。
自分の将来のこと人生のことを本気で考え、話し合うパートナーとして、司法書士を選んでいただけたのはとても嬉しいことです。
今後も我々司法書士が頼れる存在でありたいと思います。
本人さんの印鑑押印
成年後見人に就任すると、成年後見人は市役所や銀行への届出、施設入所契約、病院入院契約等を行う必要があります。その場合、ご本人である成年被後見人(以降「Aさん」とよびます)にかわってさまざまな書類に署名押印することになります。
各届出先によって求められる記入形式は若干異なりますが、成年後見人である私の名前をBとすると、たいていの場合、「A成年後見人B」と署名し、成年後見人Bのみの印鑑を押印することで処理が完了します。
ところが、相手が不慣れな場合、ご本人Aさんのみの名前を書いてその横にAさんの印鑑を押すように成年後見人に求めてくるところがあります。
そんなときには、常に判断能力を欠く状態にある方の契約書面等への署名押印が法律上無効になる場合や、成年後見人により取り消される可能性のあるものとなることを説明して(そもそも本人Aさんがその場にいて署名押印するわけでもないのですが・・・)、成年後見人Bのみの印鑑押印で処理をしてもらえるよう説得します。しかし、窓口の方も上司の判断を仰がずに独断では受付できないということになり、かなりの時間待たされることがあってとても困ります。
このコラムを通じて、少しでも成年後見制度の理解が深まっていくことを願っています。
後見人の報酬はおいくらですか?
「後見人の報酬はおいくらですか?」「いつお支払いしないといけないのですか?」等々、最近、後見人の報酬について質問を受けることが多くなりました。
「後見人に報酬を支払わないといけないと聞いたが、そんなお金はないし・・・」と心配されるご親族もおられます。
いえいえ、後見人がご親族に対して報酬を請求することはありませんし、ご親族が後見人の報酬を支払う必要もありません。
後見人は、ご本人のために業務を行いますので、ご本人の資産の中から報酬をいただくことになります。なお、資産がない方であっても後見制度を利用することは可能です。
また、報酬額も、後見人が勝手に金額を決めるものではありません。
裁判所に対し、後見人として行った業務を報告して、そのうえで裁判所が適正な報酬額を決定します。
つまり、後見制度とは、判断能力の低下したご本人を保護するための制度ですから、後見人の報酬についても裁判所が関与してご本人の資産を守るのです。
ご本人のために後見制度を利用する必要がある場合には、ぜひ私たちリーガルサポートにご相談ください。
成年後見制度利用のすすめ
「成年被後見人」というと、何もわからない人と思ってらっしゃいませんか。実はそんなことはないのです。
自分の財産を管理することはできないけれど、ヘルパーさん等の手助けを受けながら一人暮らしをしている方は大勢いらっしゃいます。食事の用意をしてもらえば自分で食事をし、誘導してもらえばトイレもできる。着替えも介助があれば自分で行える。
ただ、病気等が原因で、自分でお金の管理や支払ができない。そんなときに成年後見人は、ご本人に代わって契約をしたり支払をしたりして、ご本人の生活を支えます。
役所や金融機関からの書類がわからないから放っているという高齢者のお話を耳にします。たとえば法定後見制度は、後見・保佐・補助とご本人の事情に応じて使えますので、もう少し気軽に成年後見制度の利用を考えていただければと思います。
遺言があったら
先日、事務所に相談に来られた初老の女性の方(以降、「相談者」とよびます)で、こんなことがありました。
亡くなったご主人(以降、「亡A氏」とよびます)の名義になっている自宅の土地建物を自分が相続したいとのことでした。亡A氏と相談者の間に子がおられないということで、今回の場合、相続人は相談者と亡A氏のご兄弟でした。亡A氏と相談者はかなり高齢になってから結婚したこともあり、亡A氏のご兄弟とはあまり付き合いがなく、疎遠であるとのことでした。
相続に関する相談を受けていると、「遺言」があれば…と思う場面が多々あります。
今回の場合、亡A氏が相談者に相続させる旨の遺言を残しておれば、他の相続人の関与なく相続できます。残されたご家族が、有ってよかったと思えるような「遺言」を作成してみてはいかがでしょうか。もし、専門的知識が必要な場合は、リーガルサポートの会員がお手伝いできます。
本人さんの親族からのお願い
様々な事情があって、成年被後見人さんなど(以降、「本人さん」とよびます)の親族が成年後見人に就任することができず、わたしたち司法書士や弁護士、社会福祉士などの第三者が成年後見人に就任するケースがよくあります。
上記のような場合、本人さんと親族の関係は良好な場合(同居して生活している場合など)が多いのですが、成年後見人は親族の方から様々なお願いを受けます・・・
たとえば・・・
本人さんの親戚が亡くなったので、本人さんから香典○○万円を支出してほしい。
本人さんを見舞いにくる親族の外食費を支出してほしい。
本人さんに毛皮のコートを(本人さんの支出により)買いたいのですが・・・
成年後見人は親族からのこのような要望に対して、ひとつひとつ根気よく対応し、場合によっては、裁判所と協議して判断することもあります。
成年後見の仕事は、根気強さと慎重さが求められ、それでいて柔軟に対応する必要もあります。
成年後見制度を利用する必要はないのでしょうか?
現状なんとかなっていれば、成年後見制度を利用する必要はないのでしょうか?
「親族は遠方にいるけど、近所に住む知人に銀行のカードも渡して、財産の管理をしてくれているから大丈夫。」とおっしゃっている入院中の方がいました。
成年後見制度は単に財産を管理するためだけのものなので、自分は大丈夫と思われているかもしれません。
現状の問題がないように思えるからといって本当に大丈夫なのでしょうか。
成年後見制度を利用しておらず、単に口頭で頼まれて財産の管理をしているだけであれば、適正な管理が行われていないかもしれません。
また何より、ご本人の判断能力が不十分となったとき知人は財産の管理する権限がなくなってしまうかもしれません。さらに万一のことがあった場合、適正な管理と思って財産の管理をしていたとしても、相続人に責任を追及されかねません。
このようなトラブルを防ぐためにも、ご本人の状況に応じて将来のことも考え、身内や親しい友人であっても、きちんと家庭裁判所で選ばれた後見人をつけることの必要性も考えておかねばならないのではないでしょうか。
成年後見人にできること、できないこと
父の認知症の症状が重くなり、一人息子が父の成年後見人になることを検討しています。
成年後見人となった息子は、父を代理してどのようなことができるようになるのでしょうか。
成年後見人は、認知症などで判断能力が低下した本人のために、広い範囲の法定代理権を付与されます。
ただ、その代理権の範囲は本人の財産管理の範囲に限定されます。
具体的には預貯金、年金、不動産、株式等を管理する権限が付与されます。
では、成年後見人が代理することができないことは?
たとえば婚姻、離婚、養子縁組等の本人の身分に関する事は代理することができません。
これらは本人の意思が最も優先されるべきものだからです。
また、本人に代わって遺言書を書くということもできません。
遺言は、法律上、本人にしかできない行為とされているためです。
他にも成年後見人にできること、できないこと様々あります。
これらをよく理解した上で成年後見申立をする必要がありますね。
きっちり理解してから手続きを
成年後見制度は、どのような場合に利用するものでしょうか?
「母が高齢で認知症になっているので、後見人にならないといけなんですよね。」
という質問がよくあります。近年の高齢者社会で、介護保険などの利用と同じようなイメージで後見人をつけないといけない、ということは何となく知っておられるようです。
「後見人の続きは、こうこうで、家庭裁判所へこういう書類を提出して、選任後もこういう報告が必要で、財産管理はこのようにするんですよ」と説明すると、「そんなに大変なんですか」とういう話になって「それじゃ、やめときます」となる場合が結構あります。
後見人をつけないといけないということはがある程度理解されているようですが、本当にどのような場合に後見人を選任するべきかということを、きっちり理解してから手続きをしましょう。
後見人はご本人が死亡するか、判断能力が回復するまで続きます。