認知症の母がいますが、亡父の遺産相続手続きはどうすればいいですか?
(相談者 長女 58歳)

私は、実家で両親と三人で暮らしてきましたが、母は5年ほど前に認知症を発症し、今では、たまに里帰りする妹のことさえも分からなくなってきました。最近は、足腰も弱ってきて、外出する時には車椅子を使用しています。
そんな中で父が急死しました。母のデイサービスやショートステイにかかる費用は、父名義の預金口座から支払っていましたが、父の死後は、口座が凍結されたため、私が自分の貯金を切り崩して支払っています。このままでは、私の貯金も底をつきますので、父の遺産相続について、妹と話し合ったところ、妹は、これまで、私が両親の面倒を見てくれたので、父名義の実家の不動産と預貯金は、全て私が相続したらいいと言ってくれました。
そこで、知り合いの司法書士に相談したところ、母が認知症のため、このままの状態では、遺産相続の手続きはできないと言われてしまいました。
相続人の一人に、認知症などで判断能力が不十分な人がいる場合、遺産相続の手続きは、どのようにするべきなのでしょうか?
本ケースのような場合、家庭裁判所で、お母様の成年後見人を選任してもらい、成年後見人をお母様の代理人として、相談者様や妹様と遺産分割協議を行ったうえで、ご自宅の相続登記や預金の解約手続きを行うことになります。
現在、私が母の面倒を見ていますので、私を母の成年後見人に選任してもらうことはできるでしょうか?
最終的に家庭裁判所が判断することですので、申立書に、成年後見人の候補者として相談者様のお名前を記載したとしても、家庭裁判所が諸事情を考慮して、司法書士、弁護士、社会福祉士等の専門職後見人を選任する場合もあります。本件について、相談者様がお母様の成年後見人に選任された場合、相談者様とお母様は、遺産分割協議において、利害が対立する関係になりますので、相談者様は、お母様の成年後見人として協議に参加することはできません。この場合、相談者様の後見業務を監督する成年後見監督人が選任されている場合には、成年後見監督人が、代わりに遺産分割協議に参加することになりますが、成年後見監督人が選任されていない場合には、家庭裁判所で、お母様のために特別代理人を選任してもらい、特別代理人に協議へ参加してもらう必要があります。
母に成年後見人を選任してもらったら、私と妹とで話し合ったとおりに、私が、父名義の実家の不動産と預貯金を相続することができるのでしょうか?
成年後見人は、ご本人の権利と財産を守るのが仕事です。本ケースの場合、成年後見人は、原則として、お母様の法定相続分(遺産の半分)を確保することが求められますので、特別な事情が無い限り、相談者様がお父様名義の不動産や預貯金のすべてを相続することは難しいでしょう。
仮に、母と私とで父名義の実家の不動産と預貯金を2分の1ずつ取得した場合、二人でお金を出し合って、自宅のバリアフリー工事をしたいと考えていますが、母に成年後見人が就いたら、母のお金を工事に使うことは認めてもらえないのでしょうか?
お母様の療養看護のために必要なバリアフリー工事でしたら、工事費用をお母様の財産から支出することができます。ただし、支出金額が、お母様の財産に比して高額であり、将来の療養看護に支障を来す恐れがあるような場合には、お母様の財産からの支出が認められない可能性もあります。また、お母様の療養看護には全く関係のない、専ら相談者様のためにする工事の費用については、原則、お母様の財産から支出することは認められません。